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2015年 10月 02日
『叙事詩「カレワラ」と創造されたフィンランド民族文化』 講師:石野裕子氏 (常磐短期大学准教授・フィンランド近現代史研究者) 日時:2015年9月18日(金) 18:30~21:00 会場:工学院大学中層棟8階 ファカルティクラブ ■北欧デザインの根を考える: 当協会では その講演活動において「北欧の人々の自然観や精神性を探り、それらが建築やデザインにどう影響しているのか」を考えようとの主旨から ”北欧デザインの根を考える”という俯瞰した研究テーマを設けています。今回この研究テーマにそって取りあげたのは民族叙事詩『カレワラ(Kalevala)』です。 周知のとおり本編は言語学者でもあったフィンランド人医師のエリアス・ロンルート(Elias Lönnrot 1802生~1884没)が、主に東部のカレリア地方を訪ね歩き、古くから農村で歌い語られてきた口承によるところの歌謡を直接聞き取り、その内容をもとに編纂した文学作品です。1835年に初版が1894年に新版が出版され、現在もフィンランドでは児童をも含めた幅広い世代の人々に親しまれています。それ程までに身近な叙事詩には、一体どのような民族的意味があり、同国の社会と歴史にいかなる影響を与えた存在だったのでしょうか。 ■創造された民族文化にみられる戦略性について: 近現代史の研究者である石野氏は、本会のテーマを語るに際して「文化がいかに社会で捉えられて政治と係わっていったか」をフレームとして掲げるなかで、19世紀後半に繰り広げられた「カレリアニズム」から分け入り、カレワラが この芸術運動と連動するかたちで国内外に伝播していった様相に触れつつ、当時、広範な自治権を有しながらもロシア帝国の一部領域に過ぎなかったフィンランドがヨーロッパ諸国に認知されていく姿を浮き彫りにすると共に、民族意識の覚醒から高揚を積極的に企図した「民族文化が創造されていった過程に在る戦略性」について示唆してくださりました。 例えば、この時代フィンランド語に対する認識、その言語表現を重要視する世論を聖地カレリアに魅了された知識人によって醸成することで、文学・芸術・建築等を民族のアイデンティティと結び付ける流れを生み出す。フィンランド文学協会(Suomalaisen Kirjallisuuden Seura, SKS 1831年設立)による前述ロンルートへの資金援助にみる民族主義的機関の関与。翻訳版を介した国外におけるフィンランド文化の流布策、なかんずくドイツのアカデミーにおける人気獲得と、その批評成果の逆輸入によってもたらされる国内での普及効果などの動きからは、ナショナリズムのもとでの民族文化とは、意図をもって戦略的に創造されていくものだという一面を垣間見ることができます。 フィンランドは、こうして創造された民族文化によって蓄えられたエネルギーを原動力として、1917年国家としての独立を果たすことになります。意図した先にあったものは国民国家という政治形態としての民族の在り方でした。 ■ゴールデン・エイジにおける欧州諸国とフィンランドとの関係について: 叙事詩『カレワラ』を、このように民族意識を動機づけるにあたっての社会的性格を帯びた文芸運動の契機に対する要素として、ひいては政治の原動力として位置づけたとき、そこには自ずと国家という政治の括りと結びつく格好で、その素顔が浮かびあがってくることは否めません。それは同時にフィンランドにおいて著しく民族の在り方が模索された”ナショナル・ロマンティシズム”期の捉えられ方、民族アイデンティティに対する標榜とも重なってきます。この時代におけるフィンランドの人々は聖地カレリアからのインスピレーションによって創造された芸術にみる「フィンランドらしさ」を精神の拠り所として愛し、民族意識の高揚に歓喜しながらも、その一方で、同時代に活躍した他のヨーロッパ諸国の芸術家たちの考えを共有し、自家撞着のようですが その一見した「フィンランドらしさ」にさえも、こうした相対的に関連し合うなかで影響を受けた中から創造されたものでした。 19世紀後半期の欧州は それぞれが互いに関連し合う状況下で、これまでの英仏らにみられる汎ヨーロッパ的な古典主義に向こうを張った国民国家としての同一性と地域性(ローカリズム)とを主張するかっこうで、広範囲の芸術領域におけるクリエイティブな活動が北欧や東ヨーロッパ、南欧といった周辺域諸国において伸張し、まさしくヨーロッパ全体がゴールデン・エイジを享受した時代でした。フィンランドにおけるナショナル・ロマンティシズムは、さらにWW1を経た後の一時期までの期間で捉えることができ、公共建築においてはタンペレ大聖堂(1907年 ソンク)、国立博物館(1910年 サーリネン)、ヘルシンキ駅(1914年 サーリネン)などに象徴されています。 ■聖地カレリアについて: こうしたローカリズムへの主張を背景に、言語への共通項を同じくする者たちが暮らす地域の統合をめざす「大フィンランド(主義)」という思想が提唱されました。このことによって地理的にはロシアの領土にあたりフィンランドの外に位置しながらも、カレリア地方を特別な所として神聖化する潮流が、その政治的立場に左右されることなくフィンランドの人々の間に波及していきました。但し、聖地となった背景には、さらに多くの複合的な要因が考えられるので、まずは大きな視点としての理解に過ぎませんが、『カレワラ』をめぐる解釈にはこうした思想的な影響が深く関わり、助長する意味が込められていました。 ■感想 「歴史」と 今を生きる私たちについて: 日本でもフィンランド語の大家 小泉保先生の編訳による図書が岩波少年文庫におさめられるなど、老賢人ヴァイナモイセンはじめ多くの神々しい英雄の活躍が描かれる叙事詩『カレワラ』は、とてもドラマチックな語りとなって多くの人たちを魅了しています。本会でも その質疑応答も含め、登場人物や物語に関する解説、去る8月に渡航した調査旅行におけるエピソードの数々、特に当所での本テーマに相応しいアートに関する企画展の話は興味深く感動的でした。さらにヘルシンキにおけるデザイン・ウィークの話題では、その臨場感あふれる報告に瞠目するなど、SADIで活動する者にとっては、またとない魅力的な講演を聴くことができました。講演レポートの結びにあたり、石野裕子様に心より感謝申しあげます。また当日、北欧文化協会理事長 百瀬宏先生のご来席を賜わり、ご協力をいただきましたことにも、あわせて御礼を申しあげます。 なお この講演レポートでは歴史を軸としたところから、その国家独立の上で叙事詩『カレワラ』が果たした役割にフォーカスした整理を試みました。北欧デザインの根を考える のテーマとの関係からは やや特異で、これまでにない切り口かもしれませんが、敢えて同国の近現代史ならびに その文化形成の点での国際的な関係性を機軸とした専門の分野を探究されている研究者に聴く機会において、冒頭で触れた「文化がいかに社会で捉えられて政治と係わっていったか」にあるとおり、歴史学の使命には 今を生きる人々にとって、同時代における事象 …それは政治や経済、社会における諸問題、国際関係の摩擦もあるでしょう、あるいは哲学や文化への思索に類することについても、複雑に内包されているかも知れませんが… いづれにしても問題を読み解き、将来を見定めるための望遠鏡ともいえる役割、知恵の拠り所、方法論であると考えます。 現在 私たちを取り巻く環境と時代に対して、後世の歴史家は、どのような論考をおこなうのか わかりませんが、政治が置かれた状況、国際社会が歴史の大転換期にあることは肌感覚からでも感じとれます。歴史から学び、今日における立ち位置を考えることは、やがて未来を見通すための大きな力となって、将来に託す理想を実現する一助になると信じます。今回の講演会が参加者の皆様にとって、一層の歴史的な視点を拓く好機となることを切に願い結びとします。 末筆ながら、本会テーマと講演の企画実現に際して 当協会理事 長谷川清之先生のご尽力にねぎらいを申しあげます。 ■補完 石野裕子 著書の紹介: 『「大フィンランド」思想の誕生と変遷 -叙事詩カレワラと知識人- 』 岩波書店、2012年。 文:SADI企画委員会 青柳一壽
by sadiinfo
| 2015-10-02 09:27
| 講演レポート
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