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2011年 10月 20日
SADI座談会「北欧に惹かれる根を考える」シリーズ~スウェーデン偏 話題提供 川上信二 氏(当協会理事) 司 会 筒井英雄 氏(当協会理事) 日 時 2011年9月30日(金) 18:30~21:00 会 場 東京大学 弥生講堂アネックス(文京区本郷) 【内容】 1.私の中の北欧。 スウェーデンに惹かれたもの? <美しい自然とそこに住む人の人柄> 2.スウェーデンは過去3回世界史に登場している。 1)8世紀~10世紀 ヴァイキング時代 2)17世紀~18世紀 バルト海の帝王時代 3)19世紀の貧困から20世紀福祉国家の建設時代 3.現在のスウェーデンを築き上げたもの。 1)自然と共生するスリョイド精神が築いたもの[自然との共生] 2)貧困から生活デザイン立国への道で得たもの[シンプルでエレガントな生活スタイル] ■スウェーデンの歴史から学んだ「視点」を介し座談会を振り返る. 「北欧に惹かれる根を考える」シリーズの座談会が、去る9月30日に当協会理事の川上信二氏を演者に筒井英雄氏の進行でおこなわれた。当日は満席に近い多くの会員方々が参集し、ストックホルムをはじめ同国での生活体験を交えた川上氏の話題に熱心に耳を傾けた。 川上氏は1930年東京生まれ。当時の通産省産業工芸試所を経たのち、向学への動機から1963年スウェーデンへと渡り、コンストファックスコーラン/KONSTFACKSKOLANに学んだ。また、司会の筒井氏も同時期にストックホルムに暮らしエグストランド・スペーク建築設計事務所に勤務した。こうした1960年代の同時期、共に北欧モダンの黄金時代を体験した旧知のふたりが語る「北欧に惹かれる、その根とは?」一体何なのか…。今や福祉など社会保障のモデル国家として先進性を体現する同国ではあるが、そのスウェーデンという国が、実は近代が萌芽する19世紀から二つの世界大戦を経て現代社会への序章へと至る20世紀のある時代まで、世界でも屈指の貧困国として在った事実を再認識し、そうした歴史を克服してきたプロセスをあらためて傾聴したことで、北欧モダンの発想や考え方、価値観、そのデザイン創造が成された根底を深く理解する一助となったように思う。いわば貧困の国民的な歴史があったがゆえに今日のモダンデザインのスピリットが在り、無駄のない簡素さや「用の美」といった評価軸が確立されたということである。モダンデザイン誕生の背景に同国の貧困の歴史はきわめて重要な要素だったのだ。 また、もう一方では北欧神話にみられるような大自然への畏敬の念を抱く民族の遺伝子についてのテーマである。恐らく社会形成への民意の奥には天与の美しい自然のなかで育まれた生命観、人間観の前提が強く在るはずである。能動的に社会の仕組みを築いてきたスウェーデン人は、自然との関係(共生)に根差したヒューマンな精神性と、前述の貧困克服の経験から学んだ問題解決の能力、すなわち合理的な思考や捉え方のバランスの上に成り立っていることを、今回の話のなかで掴むことができた。 一般にスウェーデンに対する衆目はポジティブで、特に社会保障システムの点に集まる傾向にあるが、今回の話のなかで、その歴史的背景への眼差しを意識させられたことで、ネガティブな観点からのパラダイム、マイナス要因がきっかけとなっておこなわれた国づくりの歴史から考察する立国の過程、とりわけ世界との関わり方、戦略的な関係論のような国の在りようを考えるにあたっての展開に対しても興味を覚える動機が芽生えたことは大きな意味だった。 同国の貧困歴史は同時代の欧州における相対的な点において、西欧列強のように資本の積極的な海外輸出によるところの経済支配、植民地経営を基盤とした国家体制とは異なる歴史の流れを辿ったということであるが、結果論ではあるにせよ、この歴史の事実、スウェーデン人が決して語りたがらなかった消極的なテーマが、これからの時代においては明るく照らされる物語性を帯びてくるように察しられた。そこに通底するのは、人間による自然支配の文明が転換期を迎えている今日の価値観の変化・コンセンサスと、どこか感覚的に相通じているからなのかもしれない。 このような視点を介しながら、あらためてスウェーデンのライフスタイルやモノづくりのコンセプトを追及してみるなら、なお一層私たちは北欧デザイン、また建築、そして文化への興味を深めることができるのではないだろうか。 【写真1】ヴァイキング首長の墳墓 スカンジィナヴィア半島やユトランド半島を原住地としたノルマン人(Normans.北ゲルマン人.北方の民の意)の自称がヴァイキング(Vikings)である。そこには入江の民、市場の民、漂泊の民などの意味が込められている。氷河に削られたやせた土地は農業に向かず狩猟、牧畜、漁業で生計を立てていたが、早くから沿岸伝いに交易もおこなっており、やがて北西フランス、東部イングランドなどにも進出・拡大して定住化も進んだ。その活動は9世紀以降、さらに活発となるが、理由については人口増加にともなう耕作地の不足、王の強大化に対する各地首長の不満などが考えられている。おおよそコロンブスより500年も早く北米の海岸に達した史実は勇猛果敢な血統と同時に航海技術力の高さを裏付けている。スウェーデン人はヴァイキングの部族のひとつであるスウェード人の末裔であり、交易網の拠点でもあったゴトランドには遺跡が数多く残っている。 【写真2】‘小さな小屋への憧れ’ バルト海の覇者となったスウェーデン王国は18世紀の後半にグスタフ三世の治世下で華やかな時代を迎えたが、19世紀の半ばには全人口の四分の一が海外移住する事態となる程の貧困国となる。自給自足を余儀なくされた人々は小さな小屋「コロニー」で慎ましく暮らしながら勤勉に生きた。食べられなかった時代を語りたがらないスウェーデン人だが、時代の記憶としても自分たちの苦しかった歴史を噛みしめる意味でも、その小さな小屋への憧れは質素で勤勉な精神を尊ぶ気質と共に、ある種の郷愁ともなって今に受け継がれている。 【写真3】スリョイド精神と白樺の十字架 1960年代に開花したモダンデザインも含め、19世紀末から20世紀初期のトライアルは同国の社会資産となって今に息づいている。生活デザイン立国として、そのモノづくり文化の上で機軸となったものがスリョイド精神である。そこには、しっかり地に足の着いた社会の基盤を整備する意味での全人教育の思想(運動)も込められている。明治後半の日本でも図工等の教育科目を整備する上で大いに参考にされ、後に柳の民芸運動にも影響を与えた。大衆のなかに溶け込んでいる職人の手業、生活工芸を大切にして生活の中で活かしていこうとする発想と姿勢が、自然との共生精神の根底に通じるとした。 【写真4】スウェーディッシュグレース 20世紀初頭、美しいものに囲まれた暮らすことは子供の教育にとって大切と説いたエレン・ケイは、スウェーデン社会に対して「すべてに美しさを」、そして生活のなかに美しいものを取り込もうと呼びかけ国民を啓蒙した。これに呼応した建築家、芸術家は、より美しい生活様式の確立を指標に活動を積極化。なかんずく挿絵画家のカール・ラーションは「わたしの家シリーズ」で清楚な生活様式を具体的なビジュアルとして示し支持を得た。スウェーディッシュグレースは同国の優雅さを象徴するデザイン様式であり、18世紀の全盛時代に英君と称されたグスタフ三世の宮廷文化、貴族たちの生活を背景にして成立したグスタヴィアンスタイルを礎に簡素化し、色調としてハーモニー、ニュートラルといったテイストを大切にした魅力の発露である。 【写真5】‘神の手’ ストックホルム市庁舎のコンペ勝者となったマルムステンの家具、そしてまたアスプルンドの室内デザインやコーゲの陶器等々、伝統的な工芸技術の上に新しく美しい生活像を現実の形で示したデザインの潮流はスウェーディッシュグレースと賛美され北欧の奥深い神秘的な味わいとして評価される。やがて独バウハウス設立を契機に機能即美が国際的な価値の機軸となっていくなか、芸術か量産(工業)かの大論争を経て、スウェーデンでは生活を向上させる工業製品には芸術が加味されていなくてはならないとしてアートインダストリの考え方が精神として根付くことになる。‘神の手’は連綿と続くスリョイド運動からの人間の精神的なものを象徴しているのではないだろうか。 以上. (文責:企画委員・青柳一壽)
by sadiinfo
| 2011-10-20 08:10
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